忘れないように

鮮度の高い気持ちを、

忘れたい時もこの先あると思う。

 

 

早く忘れてしまいたいと、

早く鈍れば良いものだと、

思う日も来ると思う、来ればいいと思う。

 

 

酔っても

 

抱えきれない気持ちがあるから、

 

残すしか無い。

 

 

 

パパの足が、手で持ち上げないと、

ベッドの上に上げることすらできないのを、

 

目の当たりにしたのは3月の頭。

 

 

次のお正月も迎えられそうだねって、

 

一緒にテレビゲームをしながら、

コントローラーを振り回したのは1月。

 

 

ああ、人ってこんな短期間で弱るんだ。

 

 

 

あのとき、余命宣告なんて間に開けないよって、

 

パパがあと半年でいなくなるなんて、

 

死んじゃうなんて、

 

 

誰も信じていなかったのはたった2ヶ月前なのに。

 

 

それから少し経っただけで、

 

ああ、もう長く無いんだなって、

思わざるを得ないくらい痩せて、

 

 

25歳になるまでずっと見てきた、

強くておっきくて、優しいパパは、

 

細くて、辛そうで、痛がって、

弱々しくて、

 

でもただ優しいパパに変わっていて、

 

 

受け止めきれなくて、

 

笑いかけられたそれだけで、

「お手洗い行ってくるね」って、逃げなきゃいけないくらい、

 

 

トイレで泣いて、落ち着くまで息を潜めなきゃいけないくらいだった。

 

 

 

ねえ、あみはパパの自慢の娘だった?

 

 

 

 

小学1年生で一緒に暮らせなくなって、

 

やっと18歳の時に上京してきて、

同じお家で同じ生活ができると思ったのに、

 

たった3ヶ月で家出して。

 

 

 

物分かりが良くて、

少し賢くて、

 

人より気が利いて、

顔の形はパパに似てて、

 

小さい鼻だけママに似てて。

 

 

 

きっと性格はパパ似だけど、

ママにはそれを隠して生きてきたよ。

 

 

 

あみはママに似てるよって、

ママの前ではそう言って笑って、

 

 

あみのこういうところはパパ譲りだねって、

パパの前ではそう言った。

 

 

なんでかはまだわからないけど、

パパとママの前でだけ、

 

本当の気持ちを言えないまま、

もう25歳になったよ。

 

 

 

でも、

 

 

全然後悔してなくて、

 

 

理不尽な反抗期で、

パパを傷つけなくてよかったって思ってる。

 

 

生まれた時からあみはパパっ子で、

 

 

なにがあってもパパについて行って、

 

 

お仕事でも、お家でも、

 

新しい彼女の前でも、

 

平気でニコニコできたのは、

ただパパが喜んでくれればいいって、

思ってただけなんだよ。

 

 

 

あみはパパが思うほど賢くないし、

パパが思うほど、人見知りしないわけじゃなかった。

 

 

でも、パパに喜んで欲しくて賢くなったし、

パパが笑うから人見知りしなくなった。

 

 

 

自分の損得より、目の前の人のことを助けたいと思ってしまうところ。

 

 

 

自分がしんどい思いをしてでも、かっこつけちゃうところ。

 

 

 

全部譲り受けちゃって、本当は、損でしか無いけど、

でもなぜか、嫌じゃない。

 

 

 

パパに似て、人を見る目があるんだね。

 

 

 

古い考えだし、バカみたいな義理人情。

 

今の時代じゃ、変なんだよ。

 

 

 

でも、あみの周りはみんなそれをわかってくれる。

 

 

「パパ譲りだね」って、受け取ってくれる。

 

 

これもパパに似たんだね。

 

 

 

 

58歳でいなくなっちゃうなんて思わなかったよ。

 

もっと一緒にいられると思ってた。

 

 

強くておっきくて、誰にも負けないパパでしょ。

 

 

ガンなんかに、負けないでしょ。

 

 

あみがお嫁に行くまでは死ねないんでしょ?

 

 

 

 

まだお嫁に行ってないよ。

 

 

 

旦那さんにしてもいいかなって、思う人はいるけど、

 

まだまだ時間が足りないよ。

 

 

 

置いて行くの?

 

 

 

あみはこんなにパパっ子なのに、

 

毎年誕生日も、父の日も、忘れたことないのに、

 

 

 

 

なんでこんなに早くいなくなっちゃうの?

 

 

 

仕事で、憎らしいおじいさんたくさんいるよ。

なんでこんな人が長く生きて、

 

みんなに愛されて、惜しまれるパパが早く逝くの?

 

 

 

悲しいよ、寂しいよ。

 

 

 

もっと一緒にいれるって思ってたよ。